続く宿命の対決、Kurzweil K2000J

Kurzweil(Young chang)K2000J。シンセ故障界のトリックスター。なにが起こるかわからない。なぜそうなってるのかがわからない。

とある御大よりVX含めて数台メンテしてきましたが、そのうちの初号機が起動不良で出戻りしてきました。
あと、うちにあるK2000Jも起動中リセットぶちかましてきて立ち上がったあとRAM破壊状態になったりと非常に手強いです。

手強いというかなんというか。ほんとなにが起こるかわからない。

まず筐体開けてこんなものが目に入ったりすることもある。

Inked2020-12-07 17.24.16_LI

パターンが剥離してびよーんと立ってる(これはK2VX)
これでも動いてるんですよびっくりなことに。

そしてもう一つ。

Inked2020-10-05 13.02.01_LI

ちょっと見づらいですけど、ここは疑似SRAMが張り付いてるところで、まるで囲った部分、チップの直下に当たるんですけどチップの裏でパターン断裂してました。いちおうここはP/RAMオプションでいろいろいじられたところなんですけど、どっちにしろチップの裏でパターンが断裂するなんてのは普通ありえないことでしてな…。これは今回主題のK2000J初号機のもの。したのチップのパターンもぺろっと剥がれてました。

こんなかんじでまぁ、基板がよわいというかレジストが薄いというかあんまよくないです。

そんな感じでK2000J初号機の修理です。

症状

電源が入らない。

以上。

ってこいつ一回うちでコンデンサ全交換実施済みのマシンなんですよ。てことは起動不良の原因が他にあるということ。

起動不良っていうとほぼほぼ電源周りの異常、さらに言えば電源周りの平滑コンデンサに何かあった場合、というのが大部分です。
逆に言うとここのコンデンサが正常でさらに各電圧担当レギュレーターが安定動作してて起動しないとなると、一発で迷宮入りです。
デジタルシンセなんでPCと同じでブートするにはそのチップに決められたブートシーケンスがあります。
PCならまずBIOSなりUEFIなりが起動してそいつがブートローダーを呼び出して本体OSを起動するっていう流れだったりそういうのがシンセとか、要するに組み込みシステムでも存在するわけです。
ただそのブートシーケンスがPCみたいな統一されてみんな知ってるようなものじゃなくて、CPUで定められたものに従うことになります。それがIPLだの言われたりするものだったり、まず電源通電してリセット回路で起動電圧OKが出たら指定動作しろ、とか千差万別です。

今回のK2000Jはどうかというとまー、あんまわからんです。CPUは68xです。とうしばのTMP68301。

ということも言ってられないんですけど、一応起動しない、というお話伺ったときに真っ先に怪しいなと思うところはありました。システムメモリを担当してるっぽい疑似SRAM(PSRAM)です。

なんでそこに行き着いたかというのはまぁ、勘的な部分が多いといえばそれまでですけど、今回の修理対象じゃない、家で油売ってるK2000Jの頻発するリセット現象で、リセット後の動作について色々考えてて、なんかそもそもブート時のメモリの初期化とかそのあたりおかしいんじゃねぇのこいつ、という動きしてたもんでなんとなくそのへんが引っかかってたわけです。
というのも、リセット後にパッチリストが表示されるのがあるべき姿なんですが、リセット後そうならずパッチリストがすべて化けた状態で復帰してくる動作をしてたということがあってね。
本来の組み込み系でのリセット動作というのは、メモリの状態不良(予期せぬ内容)にならないように、CPUにわたす電圧を監視してる回路ないしはチップがあって、そいつが電圧のしきい値を下回った場合にCPUに対してちょっとおまえこれだめだ、ってかんじでリセットシグナルを出します。CPUはそいつ受けると落ちるわけですけど、通常シーケンスで上がってくるのであればメモリ内容不定っていう状態を避けるためにリセットシグナル受信後(正常起動時とほぼ同じ)のブートアップ時にまともに設計してるのであればメモリ初期化という処理を入れます。
これが正常に動いてれば上記のようにリセット後にメモリ化けするようなことも起こらないはず、つまりメモリになにか異常事態が発生する条件があるのではないかコイツラ、という疑念を持ってたわけです。

メモリの不具合ならDIAGテストで分かるだろ、って思われるかもしれませんけど、DIAGが上がってくるような状態のときはメモリ正常なんすよ。だからエラーも出ない。

今回の預かり初号機とかはそもそもDIAGすら上がってこない状態だったんでわりと異常事態なわけですよ。

このブートしない状況で電源周りはどうなってるかというとなんとも無いんですよ。オシロ掛けても脈流があったり突入時の電圧降下とかも全くなし。だから電源周りというよりはブートシーケンスの序盤で何かしら不具合があって起動しないパターンではないかなと見たわけです。ICEつないだり今どきのシステムならログ吐かせたりすればすぐわかるんでしょうけど、あいにくデバッグポートはあると言っても情報不足、そもそもリリース版ROMにDebugオプションなんて入ってるわけもないし、そもそも内部にアクセスできないんでお手上げです。
68xの達人ならバスにロジアナつないで読めるのかもしれないですけど、流石にそこまで技術無いですんで・・・。

まずはいろいろ試してみよう

とはいえいきなり突っ走るのも何なんでいろいろ見てみます。
といってもこいつ、液晶を全開修理時に換装してて、その液晶は後できたVXに移植して持っていったんで画面がない状態でした。
とはいえなんにも無いわけではなく、交換したVXの液晶はあるんでつないでみました。
するとどうでしょう。電源オンで全ピクセル真っ黒。

なんやねんそっからかよと思っていろいろ試してみてたら一回覗き込む角度変えてたときに起動したんですよ。一回だけ。

てことで真っ黒現象はコントラスト電圧があってないってことでした。

サービスマニュアルでは「画面真っ黒?あのボタン押しながらアルファダイアル回せば調整できるZE!」とか言っててるけど、そもそもめったに起動しないんだからどうないせいと。あと回路図上にコントラストアジャストできそうな事書いてあるけど、実際には実装されてないっていうYoung changあるあるな状態でした。

スクリーンショット 2021-06-07 011706

しょうがないんでいつもの技使ってコントラスト下げました。

んでなんかいかやってるとやっぱりたまーに起動する状態でした。

2021-05-27 11.24.44

対処そのいち

電圧は安定してるけどブートが不安定ってことでとりあえずというかいきなり本丸攻め込む勢いですが疑似SRAMを交換します。

2021-05-28 09.57.16

現場はここです。前述のパターン切れ修復したジャンパあるんでこのあたりも一旦撤去してチップを外します。中途半端に伸びてる配線はP/RAMオプションの電源用配線です。

2021-05-28 10.22.02

べろっと炙ってはがします。

2021-05-28 11.03.35

パターン切れてるところ悪化してますな。というかレジストうすすぎて今回のは熱で剥がれたかもしれん。
とりあえず、こいつはジャンパで補うんでびろーんしてるところはショート防止ということでぶった切っておきます。
もしかしてこいつがショート起こして動かなかった、という可能性も無きにしもあらず・・・。もはやわからん。

2021-05-28 12.52.19

てことで作業完了です。チップ周りレジストとくに薄いんでサンハヤトのレジスト液塗ってます。
なんでほいほいチップ出てくるんだってか?そりゃあなた、前述のとおりうちのやつ含めて怪しいなっていう勘があったんで数台分まとめて買っておいたんです。

ほんでとりあえず組み立てて電源ON

2021-05-28 13.49.08

100%起動するようになりました。
とりあえずOKってことで。

ただ、確実にこいつが悪いという確証なく対処療法で動かした感があるんでちょっと不安が残るというのが本音です。

一応ほかもチェックしてみよう

ということでちょっと不安が残るんで念の為ということで電源周りチェックしていきます。

回路図と現物を見比べてチェックしてるとなかなかどうして・・・

2021-05-28 16.38.53

自称Q18さん、回路図上で見てみると

2021-05-28 (1)_LI

どこをどう見てもQ12だったり

2021-05-28 (2)_LI

78M05、79M05(500mAレギュレーター)と指定されているところが

2021-05-28 14.54.43

どっちも78/79L05(100mA)品だったりしてました。

ちなみにこの±5VはDACとかDAC周辺のTTLで使います。

DACはAD1864が2基積んであります。データシート上最高で+5Vで25mA、-5Vで-28mAってことでこれが2つということで各電圧50mA、そのたTTL含めても5100mAは超えなそうな感じですけど、いかんせんDACだけで50mA持ってくことがあるって言うんでTTLも含めると割とギリかなと。(マージンとして倍は取っておきたい)
実際この2つ、小さいくせにかなり発熱してました。

ですので、ここは仕様通りM(500mA)に交換します。

2021-05-29 11.08.11

あといちおう、せっかく素子がでかくなったんでヒートシンク背負わせておきました。
背負わない状態でも発熱はちょっとあったかい程度で余裕でしたけど、一応。

あとはさっきの自称Q18のQ12のMOS-FETさん、こいつも結構な発熱でしてね・・・。

一応レギュレーターはみんなメインボードシャーシ(銅板)にLアングル経由でつながってるんで、放熱面積としては仕様上問題ないんでしょうけど、結構局所的に発熱するもんで小さい超静音ファンでもつけようかと画策しています。

2021-05-29 16.09.28

これは試作。

あと、もういっこ熱を持つ7812とかにもヒートシンクを貼り付けておきました。これも別に必要はないんだけど一応一応。

2021-05-27 17.27.00

あと気になるところといえばレギュレーターに発振防止のセラコンがついてないという点です。

2021-05-28 (2)

ここはTwitterの方で「これ発振対策してないんだけどどう思う?ちなみにいま発振はしてない」と投げてみたら「つけたほうがいい」という意見を頂いたんで追加対応というか保険みたいな感じで発振防止セラコンつけときました。

2021-05-29 15.42.01

雑に見えるかもしれないけど、シャーシの銅板(絶縁処理されてない)とのクリアランスが殆どないのと、表側は更にスペースが無いんで、足の間にチップセラコンを、79でチップセラコンが入らないところは脚付きセラコンつけときました。なぜ円盤型がないんだうちは。

これでなにかがかわるか、ということも無いんですけど一応です一応。
※このあたりですでに元の設計に抜け結構多かったりするんじゃないかと疑ってきている

その後

このあとはLEDバックライト液晶を手配してFedexでちょっぱやで届いたんで(後で送料と関税請求が来るやつ・・・)それを組み込んでひとまず終わりというかこれ以上は今の所思いつかない状態です。

あ、あとFETのファンもちゃんと実装する金具作ったりはします。

とりあえず、今できることはやりました、というところです。

ここまでの対応を入れた状態で今の所起動不良やリセットなどは何も起きてません。

ただ、もう製造から30年超えてる上に基板自体もちょっと弱いんで今後は何が起こるかわからないのが怖いところですね…。

TTL周りも同じ245とかでもGoldstarつかったりSamsungつかったり東芝使ったりわりかしめちゃくちゃなんでほんとどうなることやら・・・。

と、わりと設計と製造がグダグダっぽいみたいなことは書きましたけど、K2kシリーズ、音はすごいですよー。まじで。

これぞKurzweil!(Young changだけど)って感じでガッっときます。

K2000、K2VX(この2つは基本P/RAM装備が標準かどうかとSystemROMが違うだけ)とK2500(私の愛機)あたりはソフト音源では感じられないパンチありますわ。K2000とK2500はちょっと鍵盤が何故かたわみが大きく感じられたりしますけど、K2VXはEnsoniqのVFXとかで使われてるキーベッドと同じものが入ってるんでものすごい弾きやすくて弾いてて楽しいマシンです。

現状、このK2kシリーズは本家では修理してくれない(以前修理してくださってた社長さんが亡くなられたとか)とのことですので、なんとかしてこの手のかかる名器共を今後も長く活かせるようにこっちもいろいろ調べてみます。

とまぁこんな感じです。

全部完成したら返送しますのでもうちょっとお待ち下さい状態です。

ではでは。